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聖典から考える「現代社会におけるストレスマネジメントとしてのヨーガ」

ストレス発散ヨガ
平岡 充乃介
MSc (Yoga Therapy)/インド政府公認ヨーガ教師/ 広島「空手・ヨーガ SALUTE」はこちら/ Instagramはこちら

投稿日:2016年12月27日 更新日:

【この記事を読んでいただきたい方】

  • ストレスや心という言葉に敏感である
  • 仕事や友人関係でモヤモヤすることがある
  • ヨガの可能性について詳しく知りたい
  • ヨガを勧めたい友人がいる
  • 新しい習い事や趣味を始めたい
  • 近くにあるヨガスタジオが気になる

ストレス問題とメンタルヘルスケア

現代社会とストレス

現代社会

首都圏の電車・バスに乗れば、パーソナルスペースも関係なしに、疲れた顔の人たちがひしめき合います。
それに加え、今は会社員も学生も、電車を待っている時も乗っている時も、スマートフォンを片手に眼と神経を使っている世の中です。
身の周りの生活必需品は当の昔に満たされ、今ではどれだけ便利な物かが追及されています。
「うつ」や「ストレス」などの言葉は日常的に飛び交うようになり、テレビや雑誌で紹介されたダイエット商品は飛ぶように売れます。

歳をとればとるほど、健康は大事だったと実感するようになると聞きませんか?
今では若者でも身体と精神の健やかさに不調がみられ、生活習慣病に注意する人も増えました。
調布市が行った中高校生への調査(*1)では「いつもストレスを感じる(12.6%)」、「時々ストレスを感じる(50.2%)」と、合計62.8%もの学生がストレスを感じる日常を過ごしています。
もはや年齢など関係なしに、社会変化のスピードが速い現代において、心身のケアが大切になっているといえます。

  • 「受験勉強」
  • 「就職活動」
  • 「満員電車」
  • 「残業」    etc.

大人になるにつれてストレスという言葉が連想しやすいイベントや状況ばかり増えてきて、体の休息と心のやすらぎを求めるようになった方は少なくないのではないでしょうか?

(*1) 調布市民の健康づくりに関する意識調査報告書「調布市民健康づくりプラン編」(2012年)より

働くこととメンタルヘルスケアの重要性

専門家

この記事をご覧になっている多くの方が日ごろ働かれているか、もしくは働かれた経験があることと思います。

あなたの職場の環境はどうでしょうか、またはどうだったでしょうか?
厚生労働省による「労働安全衛生調査」(2015年)によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は59.7%となり、2010年の43.6%よりも16.1ポイント増加しています(図表1)。さらに遡って、2007年には33.6%の事業所しか取り組んでいませんでした。
また、従業員が100人を超える事業所では、90%以上の事業所が対策に取り組んでいることから、「メンタルヘルス対策が行われていることが当たり前」と言えるようになりつつあります。

このような背景には、過去に「メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上の休業又は退職した労働者のいる事業所の割合」が9.0%(2011年調査)だったこと等が考えられます(2015年調査では0.6%になりました)。

図表1)メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所割合の推移

graph-mental-health

出典:厚生労働省「労働安全衛生調査」2015年

『メンタルヘルス経営学』(金子書房)の著者である山崎氏と日向寺氏は、人が組織において十分なパフォーマンスを発揮するためには、大きく3つの資質的条件が必要になると述べられています(図表2)。

piramid
図表2)
参考:山崎友丈・日向寺治彦『メンタルヘルス経営学』金子書房 2012年 53頁を基に筆者作成

両氏は、一般的に企業人の能力として組織においては最も注目される「仕事の遂行に直接関わる能力、すなわち技術・技能、知識、対人関係、コミュニケーションなどの社会的スキル」が発揮されるには、まず「心身と生活の健全性」が必要であるとしているのです。
一人一人の心身の健全性を高めることは、個人のもつ能力を存分に発揮することにつながり、組織全体、ましてや企業のパフォーマンス向上につながるのです。

しかしながら、現在注目されているのはメンタルヘルスケアであり、同時にフィジカルヘルスケアを含むものは多くないと思われます。
皆さんの経験から容易にご想像できるように、身体のケアも心のケアに直結しますよね。
直接的な心のケアを充足させるばかりでなく、それと同等に体のケアの大切さも考えなければなりません。
「心身と生活の健全性」を向上させるためには、心と身体における二側面のケアが必要なのではないでしょうか?

そこで私は、「制感法/諸感覚のコントロール」や「瞑想法/心のコントロール」だけでなく「座位/ヨーガのポーズ」や「呼吸法」も含まれるヨーガを、同時に二側面のケアが可能な技法として推奨したいのです。

ヨーガ聖典からみるストレスと、そのマネジメント

ストレスとは

stress-mind

内分泌学者のセリエ(Hans Selye)はストレスを

従来の系統発生学(*2)に基づく非特異性の反応パターン;体を「flight(逃げる)」または「fight(戦う)」かに備える重要な機能である

と定義しています。

刺激(ストレッサ―)に対する反応の総称をストレスとしているのです。
「ストレス=悪いもの」というわけではないんです。
というのも、私たちは普通に生活しているだけで常に刺激に囲まれていますから。
例えば家の中で食事をすることや少し外へ出掛けることでさえ刺激と呼べます。
セリエ氏は私たちの心身に良い影響を与えるものEustress/ユーストレス(例:食事・お風呂・物事の成功etc.)、悪い影響を与える物をDistress/ディストレス(例:不眠・空腹・物事の失敗etc.)と二つに分けて考えています。
人によっては食事することが苦痛であったり、空腹であることが心地よかったりしますので、当然一人ひとりで刺激に対しての捉え方、感じ方が異なります。

つまり、ストレスに関しては「感じ方」や「考え方」が重要になります。
ポジティブ思考の人はストレス刺激を「成長の機会」に変換することができますし、ネガティブ思考だと「不快感・苦痛」に変換してしまうことになるのです。
私たちのカラダで起こるストレス反応を生理学で紐解くと、

  1. ストレスを感じる
  2. 視床下部がCRFという刺激ホルモンを分泌
  3. CRFを受け取った脳下垂体がACTHという刺激ホルモンを分泌
  4. ACTHを受け取った副腎髄質がアドレナリンを放出
  5. 心機能促進や血糖上昇

という流れです。

そもそも刺激(ストレッサ―)に対して反応する(ストレスになる)かの判断は頭の中から始まっているのです。
相手の行動をあまり待てない短気な方、負けず嫌いが強い方等は、他の人よりも多くのストレスを感じてしまうかもしれません。

(*2)生物の進化における仕組み

ヨーガ聖典で考えられるストレスとは

yoga-bible

パタンジャリ大師(*3)はラージャ・ヨーガの教典/実践指導書である『ヨーガ・スートラ』で以下のように述べております。

ヨーガに頼るということはクレシャ(悲哀、悩み、苦痛etc.)を間引くことであり、ストレスが少なく優れた受容能力がある高い次元の意識へ到達するということである。

―Patanjali Yoga Sutra 第2章, 第2節

ストレスの要因は突然もしくは不意に排除されるようなものでないと考え、「間引く」という言葉を使われました。
その要因を間引くことができるのがヨーガであり、我々の意識をも高めてくれるものだとおっしゃっています。
ストレスはゆっくり整然と減らしていくべきであり、体系的なヨーガはその方法として相応しいとしています。

そして、この間引くべきクレシャに関して、聖典バガヴァッド・ギーターのSloka/詩を用いて以下のように説明できます。

繰り返し物事を考えることはいずれ愛着になり、愛着は欲望/執念に、欲望/執念(強い好き嫌い)は怒り(貪欲・情欲・嫉妬etc.)となり、さらにそれは心酔や注意不足、えこひいきとなり、最終的にはそれを見失ってしまう。

―Bhagavad Gita 第2章, 第62節・第63節

好きなことでも嫌いなことでも繰り返し考えることによって愛着が生まれます。
好きな人の一挙手一投足に過敏になったことや、悩んでいる時に普段しないような失敗ばかりした経験は皆さんにもあるのではないでしょうか?
感情の不安定さはストレス(Distress)の要因になりやすいのです。
また、自己中心的な性格は「執着」「野望」「好き嫌い」の感情によって形成されるとしており、先に述べたようにそのような性格だとストレスを悪いものとして捉えがちになってしまいます。
たくさんの人が生活する中で自己中心的な考えを貫き通すことは難しいですよね。

このヨーガ・スートラは「ヨーガとは心素の働きを止滅すること(心の働きを制御すること)」というSloka/詩から始まっており(*4)、ヨーガ実習は心の働きを制御するための体系的な実践科学として説明されています。
己の身体動作に集中すること(アーサナ/座位)、己の呼吸の流れに集中すること(プラーナヤーマ/呼吸法)、己の心の内に集中すること(ディアーナ/禅那)等により自分の意識をコントロールする技法を学ぶことができるのがヨーガなのです。

もやもやした時にランニングをすればスッキリするように、体を動かすことは頭の中で余計なことを考える隙がなく、今の自分(の動作)に集中できる一つの手段なのです。
世界的にストレス社会といわれる現代において、ヨーガの中でも「アーサナ/ポーズ」が注目されやすいのも納得できるのではないでしょうか?

(*3)ヨーガ・スートラの編纂者であり、文法学者ともされている。
(*4)Patanjali Yoga Sutra 第1章, 第2節. 第1節は「これよりヨーガの解説をする」である。

療法としてのヨーガの活用

yoga-therapy

Dr.ナガラートナとDr.ナゲンドラを中心として、南インドのバンガロールにあるヨーガ療法施設Prashanti Kutiramにてヨーガの療法的効果を実証するための様々な研究・調査が行われおり、多くの論文が発表されています。
また、インド国内に留まらず、海外からも多くの方々が“ヨーガを実習することで心身を癒したい”とこの施設を訪れています。

そのような施設で研究をされているお二人は、生活習慣病と精神的疾患が増えた現代の状況を次のように述べられています。

従来の西洋医学の治療法は、肉体とその機能に焦点を当てて行われてきた。
身体の生理的な異常というよりも、むしろ生活習慣や生活態度に病気の原因をもつ疾病に対しては、従来の西洋医学では対処しにくい。
現代の異常なほどのスピードで変化する社会生活の中では、多くの人びとは絶え間なくストレスにさらされている。
そして、これらのストレス問題に対して一般の人びとが採用しているのは、飲酒・喫煙・過食(嘔吐)・薬物・各種依存などの有害的なストレスマネジメントであり、ついには肉体の病気をはじめ、心の働きまでも破壊する形となって現れてくる。

(R.ナガラートナ・H.R.ナゲンドラ・ロビン.モンロー/橋本光 訳『あなたにもできるヨーガ・セラピー』産調出版 2000年 9ページ)

事故や遺伝的なものが原因で発症する病気を「Anadhija(アナディジャ)」、それ以外はストレスと誤ったその対処法が原因とする「Adhija(アディジャ)」と呼び、ヨーガにおいて「ストレスとはスピードである」としています。
呼吸法や瞑想法はもちろん、呼吸に合わせてゆっくりと行われるヨーガの動作(アーサナ/ポーズ)もまた、私たちの体から緊張を取り除いてくれるだけでなく心の中の焦りや高ぶりをスローダウンさせてくれ、「速いスピードの中でも惑わされない心=常時の落ち着き」へと導いてくれます。
ヨーガ実習は、ストレスから生じる諸問題への対処法にも予防法にもなるのです。

仕事と健康

yoga

日本においてヨーガというものが広く知れ渡るようになり、定着してきたこの状況はとても喜ばしいものといえます。
ヨーガという言葉の定着の次の段階としては、ヨーガを行うことによる効果の認識であると思います。
そこで、「ストレス」と「心の病」とが大衆化している現代で、大量消費による社会問題と、それから生じる諸問題への対処法(ストレス・マネージメント)としてヨーガを提示しました。

ヨーガは宗教的であるだとか、女性的であるからと、男性(とりわけビジネスマン)の方々から敬遠されがちではないでしょうか?
もちろん、物事に対する捉え方は人によって様々であるため、色んな考えがあります。
しかし、もともとヨーガというものは男性が行うものであり、女性がそれを行うことは社会的に快く認められていませんでした(今ではインド人女性の先生も大勢いらっしゃいます)。
男性がヨーガをすることはとても自然なことですよ。

ヨーガ(特にヨーガ療法)が心身の癒し・治療において効果的であるということは、インドの研究機関/大学院で実証されている上に、日本では日本ヨーガ療法学会の研究発表においても多くの症例が実証されています。
少しでも時間があれば始められるのがヨーガです。
今では多くのヨーガ教室が開講されていますし、また、本を読むことやインターネットで動画を見ること等、さまざまな機会が身の回りにあると思います。
今までヨーガに関心があまりなかった方が、この記事を機会に興味を持っていただければ幸いです。

参考

india

  1. 調布市 (2012), 『調布市民の健康づくりに関する意識調査報告書「調布市民健康づくりプラン編」』PDF,調布市HP, 2016年12月22日
  2. 厚生労働省, 『労働者健康状況調査』(2007)PDF,『労働災害防止対策等重点調査』(2011)PDF,『労働安全衛生調査』(2015)PDF, 厚生労働省HP, 2016年12月22日
  3. 山崎友丈・日向寺治彦 (2012)『メンタルヘルス経営学』 金子書房
  4. R.ナガラートナ・H.R.ナゲンドラ・ロビン.モンロー/橋本光 訳(2000)『 あなたにもできるヨーガ・セラピー』 産調出版
  5. Anne Waugh and Allison Grant (12th-2014)”Ross and Wilson Anatomy & Physiology in Health and Illness” Churchill Livingstone (Elsevier)” London
  6. H.R. Nagendra and R. Nagarathna (1986)”New Perspectives in Stress Management” Swami Vivekananda Yoga Prakashana, Bangalore, India”
  7. Patanjali Yoga Sutra
  8. Bhagavad Gita

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